メルセデスが13年ぶりに輸入車ブランドの販売台数ナンバー1に返り咲いたようです。やっぱり日本人は「メルセデス」という語感から醸し出される特別な雰囲気が大好きなんですね・・・といっても13年ぶりとはちょっと長過ぎです。13年前のメルセデスというと、メルセデスの全ラインナップにおいて「低品質化」がしばしば議論の的となっていました。とりわけ1997年に新たに加わったコンパクトカー(Aクラス)とSUV(Mクラス)は酷かったようです。もちろんクルマなんて自分で判断して嫌なら買わなければいい話なので、どんなクルマを投入してもいいはずですが、メルセデスだから「高性能車」であることが義務だと勝手に解釈して、無茶なハンドリングでクルマを虐め抜くテストなどを、カーメディアが独自に実施して、まるで鬼の首を獲ったかのように騒ぐわけです・・・これも名門の宿命ですね。
さて12年ひと昔とはよく言ったもので、いい感じに「名門」「古典」「格式」といった重苦しい形容が薄らいだことで、メルセデスの受け止められ方もだいぶ変わってきたように思います。他の輸入車ブランドを見ると、アウディやBMWはデザイン面で保守的で、VWやミニ、フィアットは復刻デザインをブランドアイデンティティに掲げている中で、メルセデスは常に新しいプライベートカーのデザインを模索し続けています。伝統を重んじる人々は、バリエーションが一気に増えたFFモデルに眉をひそめているでしょうが、Aクラスをベースに、CLA、GLA、CLAシューティングブレークとここまでラインナップを拡充したならば、もはや「プレミアム・コンパクト」に最も誠実に取り組んだブランドとして賞賛すべきではないか?・・・これまでやや批判的だった私も認識を改めつつあるところです。
思い起こせば、現行Aクラスが登場した時は、恐らくダメだろうなという予想通りに、やっぱりダメだね・・・と少々ガッカリしました。それでもボディサイズに比してゆとりがあって魅力的なパワーを誇るA250シュボルトに関しては、あれこれと実用的に使える万能なプライベートマシンとして十分な資質も感じましたし、このグレードの試乗車を求めて片道30分の最寄りではないディーラーに初見参しましたが、そんな一見客にも値引きもたっぷりあったので、いざ買うとなればそこそこ満足できたのでは?という印象でした。
さらにしっかりと値引きを引き出せれば、ゴルフGTIとの価格差がほとんどないくらいになるでしょうし、AWDであることを考えればお買い得とすら言えます。ハンドリングや駆動系のスムーズさはやはりゴルフ7GTIの方が優れていますが、ゴルフがBセグ寄りなのに対しAクラスはどことなく乗り味がDセグっぽい部分もあるので、AWDで安定走行性を求めるならばA250スポルトの良さがGTIを上回ります。さらにブレーキに関してもAクラスの方がゴルフよりも絶対的優れているように思います。そして何より同じCセグ同士とは思えないほどにAクラスの内装はゴルフを相手にしてもハッキリと進歩的です。カラーコーディネートの徹底度はVWとは大きく違い、さらに他の多くのCセグに対してもかなりのアドバンテージがあります。またレクサスCTやアウディA3といったCセグの内装自慢にも十分に対抗できます。
ちょっとわかりづらいですが、この現行Aクラスによる「Cセグ新展開」にはアウディやレクサスのそれとは一線を画した「思い切りの良さ」があったと思います。つまり廉価モデルを作ることには、必然的に上級モデルの需要を喰ってしまいブランド全体の売上を押し下げるリスクがあるわけで、レクサスは相変わらずCT以外の小型モデルの展開には及び腰です(欧州で新型コンパクトが公開されましたけど)。アウディにしてもA1やA3はあくまでVWの設計を使った入門モデルということを強調したものでしか無いので、エンジン縦置きのアウディが欲しい層は見向きもしないのだとか。それに対してメルセデスはたとえAクラスにも最初から上級モデルと同じエンジンを積んだグレード(A250シュボルト)、さらにAMGモデルまで発売1年目で準備してきました。
Aクラスとその派生モデルによって大きくシェアを喰われると思われた上級モデルですが、新型Cクラスにエアサス車を導入したり、Eクラスにも6気筒に加えて4気筒のディーゼルを追加するなど、競争力を高める道筋をつけておいてCクラスもEクラスも堅調な売上を誇る戦略は実に巧みです。まるでスバルやマツダがラインナップの上から下まで全方位的に「いいクルマ」を作っているのに似ていますし、メルセデスは300万円台から2000万円台に至るまでのレンジで勝負することが要求されることを考えると驚異的です。
メルセデスが首位を奪ったことを報じた一般のネットメディアに対して、「最近のメルセデスは安物が多い!」みたいなコメントが多数寄せられていました。もちろんブランドの平均価格が下がっていることは事実なんですが、ただ単に安くクルマを売っているのではなく、十分にユーザーのことを想定したクルマ作りが出来ている「気の利いた戦略」だと言えます。いくら安いとはいっても300万円台ですから、単純に安かろう悪かろうでは日本車の実力が堪能できる300万円台の国産車の前に歯が立ちませんし、これ以上に安くするとVWのup!のように逆に売れなくなります。三菱ミラージュや日産マーチの例をみても100万円台の普通車はいずれも低調で、日本車であっても安過ぎると売れません。やはり日本で成功するためには、ユーザーを虜にするような「志」を注入する必要があります。
ゴルフの駆動系に負けると様々なカーメディアで叩かれ、沢村慎太朗「午前零時の自動車評論6」や島下泰久「2014年版間違いだらけのクルマ選び」といった著名なシリーズ本でも猛烈に酷評されたAクラスですが、それでもメルセデスの信念はそれらの障害を見事に乗り越え日本のユーザーに届きました。もはや変な皮肉をもって受け止めるのではなく、日本でもポピュラーな「普通車シリーズ」として、日本のユーザーの嗜好を示すモデルへと見事に大成したといっていいと思います。マツダのアクセラシリーズや、スバルのインプレッサシリーズよりも豊富なラインナップを持つ、日本市場最大のCセグ・グループを形成した「Aクラスシリーズ」に対し、どの日本メーカーが対抗できるのでしょうか? いやはやメルセデス恐るべき・・・。
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