いよいよMQBの本領発揮というところでしょうか? まるで3Dプリンターのように設計の自由度が高く、いろいろなボディタイプとパワーユニットを組み合わせることができるというのはなかなか便利なようです。といっても従来の工法でもヴァリアント(ワゴン)のボディにゴルフRのユニットを組み込むことはそれほど難しいことではなさそうなので、実際のところはMQB云々ではなくて、「レヴォーグ」や「メガーヌエステートGT220」が高い走行性能に加えて、なかなか個性的なスタイリングを誇るようになり、VWグループの看板モデルである「アウディA4アバント」の市場を土足で荒らすようになった事態への対処がホンネなのかもしれません。
本体価格でおよそ600万円の「アウディA4クワトロ2.0TFSI」ですが、現状のライバル関係を考えると、ゴルフGTIと同等程度の211psの出力ではプレミアムワゴンとしては少々魅力が不足?ではないかという気がします。アウディの質感の高い内装を考えれば、価格は納得という声もあるでしょうけど、せっかく600万円出してプレミアムワゴンを買うならば他にも目移りしそうなモデルがたくさんあります。例えば「ボルボV60T6」は同じ600万円で安全やパワーユニットの面では非常に魅力的です。横置きながらも直6ターボを使って333psを発揮する上、ワゴンデザインが得意なボルボですから非常に満足度が高いクルマです(残念ながらT6の生産が終了した模様)。さらに「BMW320dツーリング」は売れ線グレードの本体価格が550万円とA4に比べお買い得で、Mスポ仕様でも580万円です。ワゴンという荷室に特徴があるキャラクターだからこそ、トルクが高いディーゼルユニットがいい味を出しています(ワゴンこそディーゼルだ!)。これでAWDモデルがあればいいのですけど・・・。
ほかにもいろいろと候補はあるでしょうが、要するに「A4アバント」の競争力がここ数年で急速に弱まっていて、実際のところ相当なアウディ好きしか買わないクルマになってしまっています。ブランド全体としてもSUVも小型モデルに目立ったヒット作が無く、中国市場でこそ健闘していますが、日本やアメリカにおいてはVWグループの苦境で、ドイツの3グループでは特にメルセデスの台頭が目立ちます。そこでVWグループが考えたであろうことが、A4アバントよりも安くて、しかも性能面で上回る280ps出せるワゴンを作ってしまおう!ということで、いよいよ「ゴルフヴァリアントR」が登場しました。現行A4アバントのモデル末期にさしかかるまで発売を控えていたのは、A4アバントのシェアを喰わないための経営上の判断だったと思いますが・・・もしかすると次期A4にはアバントが無くなる?あるいは「メルセデスCLAシューティングブレイク」みたいな、色モノワゴンへと変化するかもしれません。
さてかつての「レガシィSW」「パサートヴァリアント」の頃のような機能性重視で、もっさりしたデザインばかりだったのが嘘のように、最近に登場した「プレミアムワゴン」のデザインは美しいです。いずれも端正な顔つき(フロント)にスタイリッシュなサイドもリアを備えていて、「見た目で欲しくなるデザイン」をかなり意識した作り込みです。一方で大規模なフェイスリフトも無いままに7年が経過しているA4アバントは・・・やはり経年の劣化は隠せません(かつてはオシャレワゴンの最右翼だったのに!)。そしてE91ではちょっとオーラが足りなかったBMW3ツーリングのリアデザインも、F31になってからBMWらしからぬ「ポップ」さが備わり、現状ではA4アバントをややリードしていて、まさかのBMWがアウディにデザインで勝利するという展開になっています(あくまで主観ですが)。
しかしワゴンを巡るライバル関係は大きく変化していて、プレミアムワゴンの代表モデルだった「A4アバント」と「BMW3ツーリング」の2台の存在が完全に霞んでしまうほど、新たに登場した「レヴォーグ」、「メガーヌエステート」、「ボルボV60」、「ゴルフヴァリアント」、そして「アテンザワゴン」といった新興勢力の5台は「プレミアム」であることを意識していて、シェア獲得に向けて洗練されたクルマ作りにとても力が入っています。何に対してプレミアムなのか?というと、それはパッケージ性を目一杯重視していることがスタイルから分るトヨタの「カローラフィールダー」、「アベンシスワゴン」などのワゴンと比べるとわかりやすいです。まずはフロントマスクやシルエットへの「エクステリアのこだわり」、そしてアウディやBMWに匹敵する「インテリアの良さ」、そしてアウディ、BMWを超えるほどの「走行性能」とまさに三拍子揃った実力車ぞろいです。
「より良いものを、より安く」というのは、情報化が進む現代社会では大衆の行動原理として避けられないものです。ディーラーに行かなくても自動車専門誌を買わなくても、ネットで必要な情報がいくらでも無料で入ってきます。メーカーが発信する広告なのか?第三者が出している「評価」なのか?といったメディアリテラシーを駆使して判断することさえ出来れば、自宅でパソコンの前に居ながらにある程度までは候補車を搾りこむことができる時代です。そしてそこで行われる「第一次選考」では、「見た目」と「価格やスペック」といった分り易く数値化された情報がどうしても重要になってしまいます。
先述の通り、本体価格が600万円のアウディA4クワトロ2.0TFSIは、同クラスのモデルよりも高価格で低スペックに映り、やはりアウディに好意的であっても「コスパが悪い」という印象を与えてしまいます(実際は値引きなどあるわけですが)。VWグループとしてはアウディが逃しているであろう「プレミアムワゴン」ユーザーを上手く掬い取るため「ゴルフ・ヴァリアントR」なのだと思います。本体価格が560万円で280psガソリンターボとして登場した「ゴルフヴァリアントR」ですが、確かに300psが出せる「レヴォーグ2.0GT」の最上級グレードが360万円ですから、まだまだ割高感は否めません。それでも輸入車に高いステータスを感じる層(スバルに対して否定的な高級志向な層)を、BMWやボルボから奪還するには十分な商品力とコスパを備えているといえます。
そしてVWの欧州市場におけるライバルになっている、ルノーのメガーヌエステートのハイスペックモデルである「GT220」(330万円)に対しても出力面でも優位に立っています。しかもGT220はMT仕様しか日本に導入されておらずユーザーが限られる上、FF車であり積載量によってトラクション面での振り幅が大きくなるワゴンにとっては、やはりゴルフヴァリアントRのAWDが有利です。T6以外の「ボルボV60」もFFですし、BMW320dツーリングもFRのみの設定なので、「AWD」でフィルターをかけるならば、ゴルフヴァリアントR(560万円)、レヴォーグ2.0GT(最上級で360万円)、アウディA4クワトロ(600万円)、アテンザワゴンXD(最上級で400万円)の4台が「プレミアム・AWD・ハイスペック」を兼ね備えたモデルになります。
かつて(2000年頃)はエンジントルクの豊富さとフルタイムAWDの実力の高さから、「鬼トルク」などと形容されて、ユーザーからそのダイナミックさを称賛されてきた「アウディA4クワトロ」ですが、この4台の中で改めて乗り比べてみると、やはりトルク40kg・mを誇る他の3台に比べて貧弱な乗り味に感じてしまいます。やはり15年も経つとクルマの進化の幅は大きく、常にクラスの頂点を守り続けるというのは非常に難しいことであるようです(もちろん「S4アバント」や「RS4アバント」といったスペシャルモデルはありますけど)。
「レヴォーグ」がヒットし、「アテンザワゴンXD」にAWDが設定され、そして「ゴルフヴァリアントR」が登場するなど、俄にも中型車の新たな魅力を発掘するような「魅力的なジャンル」が突然に盛り上がってきたように思います(レヴォーグの功績?)。ワゴンのデザインも日進月歩に進化しましたし、コンパクトカーとはハッキリと一線を画すくらいに迫力の走行性能を備え、パッケージ面でも車中泊も十分に可能です。高級車が並ぶ六本木ヒルズの地下駐車場から夏のキャンプ、そしてAWDの利点を生かして真冬の豪雪地域まで・・・あらゆるシチュエーションで楽しめるクルマということを考えると、多少は高価でもいいかなという気もします。さらにメルセデスからも「CLA250スポルト4MATIC・シューティングブレイク」が550万円(211ps)が発売され、さらに競争が激化して盛り上がりそうです(アウディA4クワトロはFMCまで苦しい戦いになりそう)。
この「プレミアムワゴン」市場がさらに盛り上がるためにも、ぜひ日産にもスカイラインベースの「ステージア」の復活を、そして三菱にも一念発起してギャランフォルティス後継として新型ワゴンを作り、ランエボで熟成されたユニットを使った「プレミアム・ハイスペック・ワゴン」なんてどうでしょうか。日本とドイツの技術力を持つメーカーがそれぞれに総力を挙げて、走行性能とデザインを競い、そこにジャガーやアルファロメオが参戦してくる?なんてシーンを期待したいですね。
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