2015年7月22日水曜日

アウディA1 「1L直3ターボのプレミアムカー・・・時代は完全に変わった」

  VWが最近になって予期せぬ動きに出ています。ゴルフ7がデビューした2013年前後から欧州や北米などの成熟市場で苦戦が続いていることを受けて、従来のダウンサイジング戦略を見直し、「適材適所」のエンジンラインナップを打ち出しつつあります。具体的に言うと、北米ではゴルフ7に変わって以来主力エンジンは1.8Lターボが使われていますが、今年に入って日本市場でもポロGTIを皮切りにこのエンジンが導入され初め、今度はゴルフに新設されるクロスオーバーワゴンにもこのエンジンが使われるようです。

  VWの「日本チャンネル」は従来の1.4L&1.2Lを中心としたアジア版に組み込まれていましたが、北米版での企画車をそのまま日本にも導入してテコ入れを図りつつあるようです。これまではゴルフGTIなどの一部のスペシャルモデル以外は、中国・東南アジア・インド向けと同じエンジンがパサート・ゴルフ・ポロ問わずに使われていましたが、1.8Lターボ車の売上が好調ならば供給元が変わってくる可能性もあるかもしれません。とりあえずベース車において「アジアVW車」(ゴルフR、ゴルフGTI、ビートルターボ以外の従来モデル)と「北米VW車」(ゴルフクロスオーバー)を選べるようになったことは喜ばしいと思います。

  VW1.4Lターボ&スパチャーというエンジンは2008年頃から注目され、日本市場で優勢になりつつあったトヨタやホンダのHVシステムに対抗する「夢のダウンサイジングエンジン」ともて囃されました。例えば両角岳彦著「本音のクルマ論」などを読むとよくわかりますが、当代きっての理論派評論家をかなり前のめりにするほどの高性能エンジンでした。なぜ2種類の過給器を使うのか?なんて素人でもわかることですが、ポンピングロスによるトルクの立ち後れをスーパーチャージャーで補うためです。ならスパチャーだけでいいじゃん!となりますが、そうするとエンジン負荷がかかり過ぎて燃費面でも耐久面でもいささか問題があるようです。だから2つとも付ける!とはなんともドイツ人らしい発想です(偏見?)。

  しかし2008年頃といえば世界的な不況、特に自動車メーカーへの影響は深刻で、フィアット、PSA、ルノー、フォード、トヨタ、マツダ、スバルなど片っ端から赤字に転落する惨憺たる状況でした。欧州・北米で日本車より圧倒的に価格が低いクルマを売るVWでも例外ではなく、大胆なコスト削減策を実行しました。その中の2本の柱がMQBプラットフォームの構築と、やたらとコストがかかる1.4Lターボ&スパチャーエンジンの順次廃止でした。ちなみに日本で販売されているゴルフは先代の途中からこのツインチャージャーエンジンは使われておらず、わずかにポロGTIに細々と採用されていただけです。

  少々、気の毒だったのが、自著でツインチャージャーを絶賛していた両角さんですね。完全にVWに梯子を外されてしまった格好です。この方もアンチHV論者の急先鋒として、自身の恵まれた知見を大きく振りかざしてしまった結果なので、自業自得な面もあるわけですが・・・。一番可哀相だと思ったのは、環境先進国ドイツを代表するVWの技術を心から信頼してか「このツインチャージャーは排気の浄化を含めた素晴らしい技術!」とまで言い切ってしまった点です。言うまでもなく2013年に行われた公的機関の調査でVWの直噴ターボは同クラスのトヨタよりも50倍汚い排気を出すと批判されてしまいました。

  もちろんVWだって営利企業ですから、決められたルール内で販売を行うことになんら問題はないですし、日本の呑気なカーメディアを「ステルス・マーケティング」としてどのように使っても構わないと思います。しかしこの安易なプロモーションが通用したのが、悲しいことに日本だけなんですよね。アメリカでは先ほども申しましたが、1.4Lターボ(スパチャー外した現行エンジン)が全く受け入れられずに、カーメディアから大批判にさらされた結果、あわてて1.8Lターボへ切り替えました。欧州でもカーメディアによって評価されているゴルフはあくまで「TDI」(あと「GTI」と「R」)のみです。そして中国メディアですらVWに叛旗を翻しました!中国市場をナメるな!と・・・。

  残念ながら日本にはこのような老獪なカーメディアなんて期待できません(それだけ平和なんです!)。旧態依然な広告代理店方式のカーメディア雑誌が次々と経営不振で廃刊になっていますが、自ら首を絞めているに過ぎません。どのメディアも特に廉価な欧州ブランド車(特にメキシコ、タイ、南アフリカ車)に関する記事があまりにも酷いケースが目に付きます。「いろいろ気になる点もあるけど、日本車に比べれば断然に楽しい!」とか判を押したようにPSA、ルノー、VW、ミニなどの記事には付けられています。けど実際に日本車と乗り比べてみると全然負けてるんですよ!これが・・・。とりあえずPSA、ルノー、VW、ミニのどっかで試乗したあとに、スズキに行ってスイ=スポ乗れば、笑っちゃうくらいに一気に熱が冷めるはずです。

  さてVWのラインナップに変化が見られる一方で、アウディからは「A1-1.0TFSI」なるモデルが登場しました!・・・まったくVWグループは懲りないな。なんて言うつもりはありません! 先述の両角さんはVWのダウンサイジングに中型車用エンジンの新たなる方向性を見いだしたようですが、VW自体の都合により理想と現実が乖離して、残念ながら商品力が破綻してしまいました。ゴルフと同じ設計のアウディA3では最初から1.8Lターボが標準エンジンとされていて、やや高価ですがグレード設定もされていて日本でも選択可能です。評判が芳しくない1.4Lターボはプレミアムブランドの廉価グレードに有りがちなデチューン仕様122ps(ゴルフの1.4Lは140ps)となっていて、まあいわゆる「客の足元を見たグレード」です。

  アウディは「金持ち相手のブランド」であって、単なるクルマ好きがそのラインナップにあれこれイチャモン付けるのはお門違いですし、とりあえず日本におけるアウディA3とVWゴルフの兄弟車による役割分担は理解できます。簡単にネタばらしすると、北米ではアウディA3はセダンのみしかないので、ゴルフに1.8Lターボを積んでもA3の販売に影響は少ないですが、日本仕様のゴルフに1.8Lターボを積んでしまうと、A3の上級グレードと被ってしまいアウディを展開する上で支障がでてきます。世界のメディアではVWの中型車(ゴルフ・A3)向けエンジンはターボ&スパチャーを廃棄した今となっては1.8Lが絶対的にベターと結論されています。ということで今後のVW日本仕様にもこの北米ラインナップの流入を期待したいところです。

  さて「A1-1.0TFSI」です。アウディがコンパクトカーを手掛けるという前提にややギクシャクしたものがあるかもしれないですが、純粋に1台のクルマとして考えた時に、輸入車キラーとなっていたスイ=スポを追いつめるだけの「何か」が備わった新しい趣向のクルマになった思います。もちろんPSAやルノーからすでに似たようなスペックのクルマは登場しています。しかしフランス車はステアリングやペダル、ブレーキの応答性やフィールなどスペックに表れない点でスイ=スポにはまだまだ歯が立たないと感じます。右ハンドル車の作り方が下手なのか?と思ってましたが、欧州メディアの評価でもことごとくスイ=スポの前に惨敗しています。

  しかしこれがVWとなると話は変わります。欧州の大衆ブランドでは随一のフィールを持っているVWのその上流に位置するアウディですから、そういった欧州コンパクト特有のネガはすでにポロの段階で上手く解消しています。日本のメディアはご丁寧にup!用のエンジンと書いてたりしますが、欧州ではこの95psのエンジンがゴルフにも使われていますし、立派なVWの普及型汎用エンジンをベースにバランスシャフトを組み込むなど3気筒の振動対策などもアウディ向けに追加されています。

  ちょうど3年前になりますが、日産ノートの現行モデルが発表され、同時に開発されるルノー・ルーテシアもFMCを迎えました。その際にルノー日産は欧州と日本とそれぞれの道路事情を鑑みて、搭載する1.2Lエンジンを欧州向けは3気筒ターボに、日本向けには4気筒スーパーチャージャーを設定をしました。これまで大衆車としてしか見做されなかったコンパクトカーに、前者には「ファン・トゥ・ドライブ」を後者には「高級感と静粛性」というニーズを組み込んだ画期的な判断だったように思います。ルノーの「スポーティさ」と日産の「高級感」といったブランド志向性を重要視するクルマ作りなんですけど、日本のカーメディアはこういう基本的なことすら報じる能力が無かったりします。

  カーメディアには徹底的に無視されましたけど、ノートは日本市場では日産の稼ぎ頭として存在感を示しました。異次元の燃費競争を繰り広げるアクアとフィット、欧州で絶賛されるスイフトとデミオと多士済々な国内Bセグの中でもっとも高価な設定だったにもかかわらずよく売れました。安さだけを追求すれば、マーチ、ミラージュなどの海外組み立てのモデルもあるわけですが、現状ではこれらが全く日本で相手にされないです(日本人はいいものが好きなんですね!)。しかもマーチやミラージュよりも高価な軽自動車がバンバン売れています。

  直列3気筒ターボといえば日本では軽自動車のエンジンですが、ダイハツやホンダが発売した軽スポーツをまともに買えば250万円くらいします。アウディA1が250万円!ってそんなに悪くない価格設定じゃないですか?(ポロとほとんど変わらない!) とりあえず内装を比べればさすがアウディ!って感じで、このクラスではまず負けないですし、3気筒化によって1120kgまでダイエットしましたから、パワーウエイトレシオならコペンやS660よりも優れているくらいです。最大トルクだって1.6LのNAを積むスイ=スポとほぼ同じです。

  アウディの販売が壁にぶつかっているゆえのスペシャル価格なんだろうとは思いますが、「ブランド力」「内装」「外装」「質感」「走り」・・・がそれなりにまとまっていて楽しめるクルマになっているんじゃないでしょうか。高速道路使って遠くまで行くには向いてないかもしれないですけど、半径30km程度を乗り回して「ご飯食べに行くクルマ」にはちょうどよさそうですね。駐車場が狭い「家庭料理レストラン」でも余裕で停められますし。食事のあとには気ままにゴーカート気分でドライブできます。200万円台のクルマは背伸びしてない感じで若者が乗るにはとてもさわやかです。ポロだとちょっと華がないし、ゴルフはちょっと落ち着き過ぎ・・・と悩んでいる人にちょうどいいクルマですね。ただし40歳以上のオッサンには絶対に乗ってほしくない!みっともない!(あくまで個人的な見解です)


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2015年7月16日木曜日

メルセデス・納得のインポートブランド首位奪取

  メルセデスが13年ぶりに輸入車ブランドの販売台数ナンバー1に返り咲いたようです。やっぱり日本人は「メルセデス」という語感から醸し出される特別な雰囲気が大好きなんですね・・・といっても13年ぶりとはちょっと長過ぎです。13年前のメルセデスというと、メルセデスの全ラインナップにおいて「低品質化」がしばしば議論の的となっていました。とりわけ1997年に新たに加わったコンパクトカー(Aクラス)とSUV(Mクラス)は酷かったようです。もちろんクルマなんて自分で判断して嫌なら買わなければいい話なので、どんなクルマを投入してもいいはずですが、メルセデスだから「高性能車」であることが義務だと勝手に解釈して、無茶なハンドリングでクルマを虐め抜くテストなどを、カーメディアが独自に実施して、まるで鬼の首を獲ったかのように騒ぐわけです・・・これも名門の宿命ですね。

  さて12年ひと昔とはよく言ったもので、いい感じに「名門」「古典」「格式」といった重苦しい形容が薄らいだことで、メルセデスの受け止められ方もだいぶ変わってきたように思います。他の輸入車ブランドを見ると、アウディやBMWはデザイン面で保守的で、VWやミニ、フィアットは復刻デザインをブランドアイデンティティに掲げている中で、メルセデスは常に新しいプライベートカーのデザインを模索し続けています。伝統を重んじる人々は、バリエーションが一気に増えたFFモデルに眉をひそめているでしょうが、Aクラスをベースに、CLA、GLA、CLAシューティングブレークとここまでラインナップを拡充したならば、もはや「プレミアム・コンパクト」に最も誠実に取り組んだブランドとして賞賛すべきではないか?・・・これまでやや批判的だった私も認識を改めつつあるところです。

  思い起こせば、現行Aクラスが登場した時は、恐らくダメだろうなという予想通りに、やっぱりダメだね・・・と少々ガッカリしました。それでもボディサイズに比してゆとりがあって魅力的なパワーを誇るA250シュボルトに関しては、あれこれと実用的に使える万能なプライベートマシンとして十分な資質も感じましたし、このグレードの試乗車を求めて片道30分の最寄りではないディーラーに初見参しましたが、そんな一見客にも値引きもたっぷりあったので、いざ買うとなればそこそこ満足できたのでは?という印象でした。

  さらにしっかりと値引きを引き出せれば、ゴルフGTIとの価格差がほとんどないくらいになるでしょうし、AWDであることを考えればお買い得とすら言えます。ハンドリングや駆動系のスムーズさはやはりゴルフ7GTIの方が優れていますが、ゴルフがBセグ寄りなのに対しAクラスはどことなく乗り味がDセグっぽい部分もあるので、AWDで安定走行性を求めるならばA250スポルトの良さがGTIを上回ります。さらにブレーキに関してもAクラスの方がゴルフよりも絶対的優れているように思います。そして何より同じCセグ同士とは思えないほどにAクラスの内装はゴルフを相手にしてもハッキリと進歩的です。カラーコーディネートの徹底度はVWとは大きく違い、さらに他の多くのCセグに対してもかなりのアドバンテージがあります。またレクサスCTやアウディA3といったCセグの内装自慢にも十分に対抗できます。

  ちょっとわかりづらいですが、この現行Aクラスによる「Cセグ新展開」にはアウディやレクサスのそれとは一線を画した「思い切りの良さ」があったと思います。つまり廉価モデルを作ることには、必然的に上級モデルの需要を喰ってしまいブランド全体の売上を押し下げるリスクがあるわけで、レクサスは相変わらずCT以外の小型モデルの展開には及び腰です(欧州で新型コンパクトが公開されましたけど)。アウディにしてもA1やA3はあくまでVWの設計を使った入門モデルということを強調したものでしか無いので、エンジン縦置きのアウディが欲しい層は見向きもしないのだとか。それに対してメルセデスはたとえAクラスにも最初から上級モデルと同じエンジンを積んだグレード(A250シュボルト)、さらにAMGモデルまで発売1年目で準備してきました。

  Aクラスとその派生モデルによって大きくシェアを喰われると思われた上級モデルですが、新型Cクラスにエアサス車を導入したり、Eクラスにも6気筒に加えて4気筒のディーゼルを追加するなど、競争力を高める道筋をつけておいてCクラスもEクラスも堅調な売上を誇る戦略は実に巧みです。まるでスバルやマツダがラインナップの上から下まで全方位的に「いいクルマ」を作っているのに似ていますし、メルセデスは300万円台から2000万円台に至るまでのレンジで勝負することが要求されることを考えると驚異的です。

  メルセデスが首位を奪ったことを報じた一般のネットメディアに対して、「最近のメルセデスは安物が多い!」みたいなコメントが多数寄せられていました。もちろんブランドの平均価格が下がっていることは事実なんですが、ただ単に安くクルマを売っているのではなく、十分にユーザーのことを想定したクルマ作りが出来ている「気の利いた戦略」だと言えます。いくら安いとはいっても300万円台ですから、単純に安かろう悪かろうでは日本車の実力が堪能できる300万円台の国産車の前に歯が立ちませんし、これ以上に安くするとVWのup!のように逆に売れなくなります。三菱ミラージュや日産マーチの例をみても100万円台の普通車はいずれも低調で、日本車であっても安過ぎると売れません。やはり日本で成功するためには、ユーザーを虜にするような「志」を注入する必要があります。

  ゴルフの駆動系に負けると様々なカーメディアで叩かれ、沢村慎太朗「午前零時の自動車評論6」や島下泰久「2014年版間違いだらけのクルマ選び」といった著名なシリーズ本でも猛烈に酷評されたAクラスですが、それでもメルセデスの信念はそれらの障害を見事に乗り越え日本のユーザーに届きました。もはや変な皮肉をもって受け止めるのではなく、日本でもポピュラーな「普通車シリーズ」として、日本のユーザーの嗜好を示すモデルへと見事に大成したといっていいと思います。マツダのアクセラシリーズや、スバルのインプレッサシリーズよりも豊富なラインナップを持つ、日本市場最大のCセグ・グループを形成した「Aクラスシリーズ」に対し、どの日本メーカーが対抗できるのでしょうか? いやはやメルセデス恐るべき・・・。

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