2015年2月8日日曜日

BMWが運ぶ「カリフォルニケーション」

  BMWはどこの国のブランド?」なんて質問はクルマ好きにとっては愚問でしかないわけですが、それではこのブランドのクルマのどこら辺がドイツなのか?と訊かれたら・・・。ある人は「機動性」と言い出し、またある人は「直進安定性」とか「ボディ剛性の高さ」を挙げるでしょう。1980年代までは大方のところその解釈が的を得ていたのかもしれませんが、現在となってはBMWが「伝統」と称して固執する「中型ボディにFR」という設計では、従来言われてきたBMWの特色といわれる「機動性」「直進安定性」「ボディ剛性」のどれを標榜するにも不向きといわざるを得ません。

  バブル全盛期からクルマに乗っている人からすれば、「腐ってもBMW(=国産よりはマシ)」という意識は簡単には抜けないでしょう。60~70代の大ベテランの自動車ライターにとってはVWやシトロエンは絶対に逆らえない「聖域」であるように、40~50代の脂の乗り切ったライターにとってはBMWやポルシェが築いた「絶対的価値観」は絶対に消えないトラウマになっているのだと思います。がしかし・・・今月の「ニューモデルマガジンX」の覆面座談会を読んでいたら、40~50代と思われる評論家達が、最新のBMWとポルシェ(とメルセデス)はクソだ!と内心に溜め込んでいたであろう「絶対」への疑問を痛烈にぶちまけていました。

  いままで散々にBMWを引き合いに出して日本車を貶めてる発言を繰り返した方々ですが、そんなことはケロリと忘れているようです。正しいことを伝えるべきだ!という良心の呵責に駆られるのは結構なことですが、ちょっと前に彼らによって散々にディスられたスカイラインやレヴォーグの開発関係者にとりあえず「ごめんなさい!」してほしいものです。そんな改心した彼らが今月号で絶賛しているのがスバル・レガシィです。彼らの訳分からない分析などなくても、今度のレガシィは十分にいいクルマだってみんなわかっていますけどね・・・。

  さて何が言いたいかというと、BMWもポルシェも彼らによって全くもって独善的に解釈されて、救いようが無いほどの毀誉褒貶を浴びせられていますが、この2ブランドの「本質」はそれとは全く違うところにある気がします。今から10年ちょっと前に、デビューしてまもなく日本のクルマ好きから袋叩きにあった「V35スカイライン」というクルマがありました。ざっくり言ってしまうとBMWとポルシェの現在地は限りなくこの日産(インフィニティ)とスカイラインが置かれている立場に近いといえます。BMWもポルシェも欧州全体を覆う「エコ」の機運に真っ向から反するクルマ作りを得意としてきました。「ストレート6」と「フラット6」がこれらのブランドの「象徴」なのですが、それらを許さないのが欧州各国や日本で暗黙の内に官民で合意された「環境意識」のようです。

  そんな息苦しさをモロに感じたであろうBMWやポルシェが、自らの意志で目指した「楽園」が「3.5L以上じゃなければクルマじゃない!」とまで放言するアメリカ市場になるのは必然です。それもドイツ嫌いなユダヤ人(レクサスを好む!)が多い東海岸ではなく、「自由」と「成り上がり」そして人種のるつぼであるカリフォルニアです!・・・と社会学者みたいなことを言ってみました。ガソリン価格の下落はとどまることを知らず、数年後には石油輸出国になると言われるアメリカは、BMWやポルシェにとってはこれまで培ってきた高性能ガソリンエンジンのノウハウを大きく生かせる最後の場所となるようです。もはやBMWもポルシェもそして日産も自らのルーツであるドイツや日本を捨てて、VW(アウディ)PSAといった貧乏くさいクルマを見事なまでに全く受け入れないアメリカへと「国籍変更」が進んでいくようです。

  ドイツ車と日本車の境界をクロスオーバーさせたようなモデルが目立つVWやマツダばかりが、やたらと高い評価を受けるようになったのが昨今のカーメディアの風潮です。そんな「ヴォルフスブルク=広島」ライン(枢軸)が作る計算づくのハイテク車が、「伝統」を重んじるBMWやポルシェを欧州や日本から間接的に駆逐した・・・という構図でいいかと思います。そんな「ピューリタン」(BMWやポルシェ)が流れ着いたのが新大陸(カリフォルニア)です。まあポルシェの親会社はVWなんですけどね。BMWやポルシェだけでなくそれらを追いかけてベントレー、ジャガー、マセラティなどが次々と流れ着いているようです。ランボルギーニやアストンマーティンはどうやら中東に新天地を求めたようですが・・・。

  「ヴォルフスブルク=広島」か?「カルフォルニア」か?

  VWやマツダに同調する姿勢をみせているのが、アウディ・PSA・ボルボ・ルノー・フィアット・オペル・ミニ・スズキといった面々で、BMWFF車や下級プラットフォームを使う(1〜4シリーズ)もどちらかと言えば、「ヴォルフスブルク」派です。こうやって括ってみるとどのブランドのモデルからも日本ユーザー目線で「使い易さ」が滲み出ています。日本でお手頃な小型車を買うならば、まずは評論家ゴリ押しのゴルフとポロを中心に、アクセラ、デミオ、スイフトといった低価格なのに全く性能でひけを取らないお買い得なモデルあり、プレミアム感を強調したアウディA3、A1、ボルボV40などがあり、さらに個性を強調したフィアット500やミニが選べます。

  「ヴォルフスブルク」派の最大の特徴(戦略)は、VW他のメーカーが揃って「クルマは走りだ!」という信念を貫き通すことで、カーメディアの寵愛を受け続けるであろうということです。実際に軽自動車(コペン含む)やミニバン、SUVといった日本で売れ筋のボディタイプと比べて、その操縦性の幅広さは圧倒的と言えます。一見シンプルに見える設計(ボディ形状・エンジンバリエーション)ですが、それによって「走り」という極めて本質的な「付加価値」を保ち続けています。

  一方で日本のユーザーが思わず尻込みしてしまうようなラグジュアリー感とボディサイズを誇るのが「カルフォルニア」派です。「ヴォルフスブルク」派のような貧乏臭い「付加価値」なんかではなく、選ばれた人の為の選ばれたクルマだけが持つ「絶対的価値」が「カリフォルニア」派の最大の特徴と言えます。バブルや高成長時代といった「宴」が完全に終わってしまった欧州や日本を追われた「流れ者」ならぬ「追放車」です・・・。もはやこれらのクルマにとって「ドイツ車」「イタリア車」「イギリス車」「日本車」といった属性は何ら意味を持たないので、いっそのこと仕切りを全て取っ払って「カリフォルニア車」でいいのではないかと思います。別に名称は「カリフォルニア」でなくてもいいですが、「中東」「六本木」「タックスヘイブン」・・・どれもピンときません。「砂埃の中」や「渋滞地獄」や「あやしげな離島」が舞台ではあまりにもかわいそうなだなと・・・。

   さて「カリフォルニア車」の代表的なモデルといえば・・・ポルシェ(パナメーラ/カイエン/991911/マカン)BMW(6シリーズ)、メルセデス(Sクーペ/SL/GT/GLなど)、ジャガー(Fタイプ)、ベントレー(コンチネンタルGTほか)、マセラティ(ギブリ/グランツーリズモ/グランカブリオ)、フェラーリ(カリフォルニアほか全モデル)、シボレー(コルベット)、フォード(マスタング)、日産(GT-R)といったところでしょうか。日本メーカーもさらに続々と参入を決めているようで、アキュラ(NSX)、インフィニティ(Q100)、レクサス(新型SC)などが予定されています。それにしてもいざ日本で乗るとしたら「駐車場」やら「燃費」やら「近所の目」やらで頭を悩ませそうなクルマばかりです。都内の超高級マンションの地下駐車場にしまっておけるくらいの余裕がないととてもじゃないですが無理ですね。


  待ったなしの少子高齢化で、様々な産業が国外脱出を図ってしまうガタガタの日本経済では、「カリフォルニア車」の比率はせいぜい1%が関の山で毎月25万台の新車販売で2000台程度は売れているようです。毎月2000台という数字が多いか少ないかは判断できかねますが、日本にも「赤坂・六本木」といった立派な「成り上がり」のスラムが形成されています。その界隈ではカリフォルニア車のサイズが駐車スペースを決めるようになっていて、超低床&ワイドボディでも難なく出入りできる地下駐車場が豊富にあるので、今後も一定の需要が続くことが予想されます。表参道ヒルズの地下駐車場に「ヴォルフスブルク=広島」車で入ろうものなら、入口の係員に「縦列スペースでもいいですか?」なんて訊かれちゃいます・・・。


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