2014年12月29日月曜日

新しい ボルボV40 は ゴルフ を超えることができるのか?

  「VW」とともに堅実な輸入車好きに愛されてきた「ボルボ」ですが、最近になってどうもあまり元気がありません。2013年にはV40のヒットによりセンセーショナルな存在だったのですが、みるみる影が薄くなっています。日本での月販1000台がせいぜいのブランドにとって、200万円台に設定された「V40T4」の大胆な低価格戦略はある程度は有効だったようですが、やはりここにきて持続性に乏しい印象です。新型エンジンも投入し再び加速したいところですが、どうも日本での戦略がチグハグな気がします。

  より日本のユーザーにCセグ車をオールマイティに使ってもらうために投入されたボルボ待望の自社開発ユニット「drive E」2Lターボを搭載したV40「T5」に大きくそそられます。しかし「T5」なので本体価格はほぼ据え置きの約420万円ですから、単純に「ゴルフGTI」や「メルセデスA250」といったハイスペックCセグの有力モデルと比べてもほとんど差がない価格設定です。ゴルフGTIの培ってきた伝統とメルセデスのブランド力を超越するくらいの実力がある新型エンジンなのですが、やはりそのユニットの魅力を一般の人に周知させられないと本格的な拡販にはつながらないでしょう。

  これまで旧フォード=マツダ陣営が作ってきた中型モデルエンジンを使ってきたボルボですが、本拠地スウェーデンは世界最先端のEV普及地域ということもあり、より環境志向の高いエコなエンジンを自社開発してきました。フォードのエンジンはスポーティでこそあれ、大してエコではない「エコブースト」(笑)ですから、いよいよそこから離れ、エコの世界的権威であるトヨタグループと新たに手を組むことにしたようです。近年のドイツ系メーカーなどが陥りがちなのが、部品メーカーへのエンジン開発の丸投げで、これによってしばしば評判を落としているのがBMWやメルセデスだったりします。エンジンそのものではなく近年ではミッションを含めたユニットトータルで性能を発揮する部分が大きくなってきた駆動系開発ですが、ZFによって「牙を抜かれて」は言い過ぎかもしれませんが、完全に味わいそのものが薄くなってしまったBMWエンジンのように実感できるレベルの「弊害」も出て来ています。

  ボルボはBMWの二の舞を避けるために、欧州のモジュラー文化な部品メーカーを避け、開発力に勝るデンソーとアイシンAWのタッグによる「オールトヨタ」による新型ユニットをブランド復活のきっかけにしたいようです。その結果何を得たのか? スポーティとエコの比較はナンセンスですが、少なくともZF8速ATを「変速速度」「ショックの少なさ」で完全に上回る基本性能に優れたアイシンAW8速ATを装備できたことは、新生ボルボにとって非常に大きな意味があるでしょう。新型ボルボのユーザーにとっても「ZFなんてクソ!やっぱり高級車はアイシンAWでしょ!」とブッコけるような、大きく満足できるポイントになりそうです。

  しかしその一方でボルボがエンジン開発の基本戦略において手本にしているのはBMWで、BMWと全く同じ要領で、デンソーといっしょに作ったこの2Lターボの「drive E」という直列4気筒エンジンをベースに、同じボア×ストロークでそのまま3気筒1.5Lにダウンサイジングしたエンジンも開発中だそうです。BMWが幅広く使っている2Lガソリンターボも「N20」から「B48」へとさらにロングストローク化された実用エンジンへと変わっていますが、フォードのショート気味のエンジンからロング化へとボルボも同じく追従しています。これはボルボ側の意図なのか、それともトヨタ陣営からの提案なのかはわかりません。ただ今後は新興国を中心にプレミアムカー用の中型車ユニットの需要が高まることが予測されていて、BMWのユニット開発で辣腕を奮っているZFの親会社にもなった独ボッシュ・グループが優勢になりつつある部品供給の流れに対し、トヨタ系列の部品メーカー連合が「待った!」を掛けたい思惑もあるようです。

  ボルボがデンソーとアイシンAWを大々的に採用したからといって、必ずしもトヨタっぽい乗り味に近づくとは限らないでしょうが、今後は日本のユーザーにどのようにボルボらしさを伝えていくか?という新たな課題が出てくると思います。従来のボルボのエンジン供給ルートは、全て旧フォードグループ時代からのつながりに頼っていました。福野礼一郎氏や森慶太氏はベースグレードに使われているフォードの1.6Lターボを絶賛されておられましたが、同様にV40ユーザーのクルマ好きにとっては、日本ではなかなか手に入らないフォードの「エコブースト」を載せているクルマという意味でV40に価値を置いている人も多いようです。

  しかしこのエンジンは、クラスの盟主であるVWゴルフTSIのものと比べても馬力を搾り過ぎで、ベースグレードにも関わらず日本のような道路環境では特に燃費が悪くなるという欠点もあります。これはBMW1シリーズの1.6Lターボにとっても同じで、ボルボもBMWもこの数年の内に3気筒化された1.5Lターボへの載せ代えが行われる見込みです。ただし両社の1.5Lターボが、スバル・インプレッサやマツダ・アクセラの2L自然吸気の燃費を上回れるかは微妙なところですし、ほぼ確実に高速道路でのエンジン音も酷くなりそうです。

  あくまで個人的な意見ですが、Cセグ車はもはや「低価格」ではなく「質」で選ぶ時代に突入していると思います。アメリカではまだまだ「スモールカー」という分類ですが、日本においてはCセグは軽自動車やミニバンに比べて、運転の楽しさや乗り心地を追求した付加価値の高いクルマとして選択されています。その結果としてVWゴルフやレクサスCT、そしてマツダアクセラが「高い評価を受けつつ販売面でも好調」という最近では極めて珍しい存在(笑)になっています。もちろんアウディA3のように「高い評価を受けつつも販売面では低調」なクルマもありますし、Aクラスや1シリーズのように「低い評価でも販売面ではそこそこ」というクルマもありますが・・・。

  さてボルボV40ですが、昨年(2013年)は非常に好調でした。ボルボが日本で月販1000台をクリアする原動力にもなりました。ベースグレードのT4がBMW120iとほぼ同等のスペックを持ちながらも、120iからマイナス80万円という価格設定が人気の要因だったようです。日本のユーザーに限った話ではないと思いますが、多くの一般ユーザーにとって、このようなマーケティング手法はかなり有効なのだと思います。その一方でいくら乗り味が良く燃費も良い素晴らしいエンジンを作っても、一般の消費者には伝わりきらない部分も多々あります。マツダの「スカイアクティブ=ガソリンエンジン」はアクセラやプレマシーに搭載された当初は市場は全くといっていいほど無反応でした。その後CX5のデビューと同時にディーゼルエンジンを発売してからマツダの客が増え、その好影響の中でほとんどがガソリンエンジン車になる新型アクセラも販売を伸ばしました。

  ボルボの「drive-E」も分類上はごくごくありふれたガソリンターボエンジンであり、よっぽど1.2LまでダウンサイジングされたVWゴルフTSIやプジョー308の方が特徴が分り易いかもしれません。ボルボもマツダに倣ってディーゼルエンジンを導入して、日本のユーザーを振り向かせるなどしない限り、400万円を軽く超える「drive-E」搭載のV40が売れることは無いかもしれません。ボルボとしてはディーゼルとガソリンターボPHVの発売も今後は予定しているようですが、その頃には「ディーゼル」や「PHV」にどれだけ新鮮さが残っているのかやや心配です。



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2014年12月9日火曜日

ドイツ車の復活はあるか?それとも・・・。

  「方便」ってヤツなんだと思いますが、少々解せないのが「2000年頃からのメルセデスの品質劣化は酷い」という意見と、「ドイツは自動車産業が国策だから世界の頂点!」という意見を器用に使い分ける人々(評論家の方々)です。そもそもKポップやクールジャパンじゃあるまいし、「国策」ってなんだか愚の骨頂じゃ?というツッコミもあるでしょう。「国策」ということはその国が儲かるように仕組まれているわけだから、利益を出せないポルシェのスポーツカー作りなんてさっさと止めさせて、ほぼ「濡れ手で粟」状態といえるSUV商売ばかりに多くのドイツの名門ブランドを駆り立てているとも言えます。

  アウトバーンの国・ドイツの自動車産業は数年前から曲がり角を迎えています。ほとんどの地域ではハイウェイの制限速度を100~120km/h程度に設定するようになり、ドイツ車の持ち味とずっと言われてきた「高速安定性」は、もはや最大市場のアメリカでは大きな商品価値を持たなくなってきました。本来ならばセダンやハッチバックが実力通りに大いに売れるはずですが、北米市場ではどちらのジャンルも完全に日本車によって追い出されてしまいました。どっかの評論家が言ってましたが、「アメリカの金持ちはユダヤ人が多いのでドイツ車を避けてレクサスを買う傾向にある」とかいう、なかなか斬新なドイツ車擁護論を聞いたことがあります。しかし「カローラよりも安いゴルフ」や、「カムリより安いパサート」が不思議なことにそれほど売れない現状を見ていると、「ドイツ車およびドイツブランドの力不足」に問題があると考えるのが妥当じゃないでしょうか。

  日本市場では「メルセデス」「BMW」「アウディ」「VW」のエンブレムが付いているだけで「お〜!すげ〜!」とか言い出すクルマ音痴な人々が多いですから、あまり言われることが少ないですが、ドイツ車は実際のところ結構とんでもないクルマが多いです。まずは「メルセデス」ですが、このブランドは近年とくに開発力の低下が叫ばれています。1990年くらいまでのメルセデスは「最善か無か」というイニシアティブに基づいた異次元のクルマ作りをしていたそうです。乗ったこと無いので何とも言えませんが、多くの人がそういうのである程度はそうだったと思います。しかし最近のラインナップのモデルを試してみると、どれもこれもどこかバランスを欠いた不可解さがくっついてくるモデルが多いです。

  言葉が悪いですが、新しく登場した多くのメルセデスのモデルが部品メーカーを締め上げてつくったかのような設計で、部品同士が喧嘩したような不整合なギクシャクを感じます。例えば日本車ならばどのメーカーのものでも、「エンジンの特性」と「ミッションの仕様」には一定の相乗効果が見られるのが普通です。トヨタ、ホンダ、スズキ辺りは熾烈な燃費競争を繰り広げているので、エンジンとミッションの組み合わせに神経をすり減らすのは当然です。日産、スバル、マツダなどは逆に乗り味を良くするためにエンジンとミッションのリズムを上手くまとめ上げ、日本メーカー車に独特の繊細さが感じられる仕上げになっています。

  多段式(8速くらい)のトルコンATを使ってしまえば、変速ショックが大幅に軽減されるので、ある程度は誤魔化せてしまうものです。メルセデスの場合FRの上級モデルはこれでなんとか開発時間の不足を補えています(BMWやレクサスも同じか・・・)。しかし逆に多段化でシフトの選択肢が増え過ぎたせいで、いまいちシャキッとしないスポーツモードになっているケースも散見されます。この点に関してはメルセデスやBMWが使う7or8ATよりも、VWの6DCT(湿式)の方が洗練されている印象すら受けます。

  そしてドイツメーカー同士で同じ排気量のエンジンを比べたときに、BMWやVW&アウディに比べてメルセデスのエンジンは「噴け上がりが鈍い」と感じやすいです。先ほどのスポーツモードもそうですが、車重があるメルセデスにとっては同等のスペックでは不利になる点と言えます。そしてミッションとエンジンの組み合わせに熟成不足があることが、メルセデスに対してしばしば見られる厳しい評価につながっている気がします。クルマの良し悪しは必ずしもエンジンやミッションのフィーリングが全てではないので安易な結論は控えますが、メルセデスの煮詰めは相当レベルに甘く、ある程度「走り」を意識した日本車・ドイツ車という強力なライバルの中においてはかなり明確に低水準なのがよく分ります。新型モデルが慌ただしく次々と登場してますから、1つのモデルに時間を割いて乗り味を調整することもなかなか難しいのだと思います。

  それでもメルセデスが、ライバルのBMWやアウディに対して優位な点もあります。最も顕著なのは、個性的な内装づくりに対する姿勢です。カーメディアは常にドイツのこの3つのプレミアムブランドに最大限の敬意を払っているので、どのブランドのクルマも判を押したように「高い質感はさすが!」としか書きませんが、実際のところはある程度の優劣は存在します。ここでリードしているのが、開発スパンの短縮化を社是としているメルセデスです。ドイツらしい質実剛健さがまだまだ随所に見られるBMWやアウディはもう古い!と言わんばかりに個性を盛り込んだ内装の作り込みが目立ちます。とある雑誌にCクラス、3シリーズ、A4のワゴンを比べる企画がありましたが、Cクラスワゴンだけラゲッジスペースの脇にネットのポケットが付いていて、その姿は使い勝手でナンバー1を獲得している某日本メーカーのクルマを彷彿とさせます。

  インパネやラゲッジルームのレイアウトを個性的かつ機能的に作るという点において、メルセデスは明らかにトヨタのクルマ作りの影響下にあるようです。センターコンソールを盛り上げる意匠は、プリウスやレクサスのHV専用モデル・HSからのトレンドと言えます。来年発売のVWの新型パサートを見て、「なんだかプリウスの内装みたい・・・」と思った人は多かったはずです(私もそう思いました)。トヨタの内装は日本の評論家やクルマ好きからはあまり高く評価されていませんが、その足取りはドイツ人の心を射抜くものになっているようです。飛行機のファーストクラスのような包まれ感はレクサス・日産そしてドイツプレミアムブランドの間で共有された「価値観」になりつつあります。

  レクサスが北米に登場してまもなく、トーマス=フリードマンが「レクサスとオリーブの木」を出版しました。その15年後の2005年にレクサスが日本上陸したときは、日本の多くの自動車好きがレクサスの「世界戦略」にかなり懐疑的だったと思いますが、それからさらに10年が経ち、先輩格のドイツブランドをも呑み込んでしまう大きなうねりになってきたように思います。その中で相対的に存在感が希薄になったドイツブランドには、盲目的な追従ではなく、新機軸を生み出す革新性を打ち出してもらいたいと思います。「国策」なんてクソみたいな大義名分は放り出して、終わったと思われたイタリア産業から大胆にも世界を見据える「マセラティ」であったり、ベンチャーながらも堂々のブランド展開を行う「テスラ」のような自信に満ちあふれた前進をしてもらいたいと思います。


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