2014年12月9日火曜日

ドイツ車の復活はあるか?それとも・・・。

  「方便」ってヤツなんだと思いますが、少々解せないのが「2000年頃からのメルセデスの品質劣化は酷い」という意見と、「ドイツは自動車産業が国策だから世界の頂点!」という意見を器用に使い分ける人々(評論家の方々)です。そもそもKポップやクールジャパンじゃあるまいし、「国策」ってなんだか愚の骨頂じゃ?というツッコミもあるでしょう。「国策」ということはその国が儲かるように仕組まれているわけだから、利益を出せないポルシェのスポーツカー作りなんてさっさと止めさせて、ほぼ「濡れ手で粟」状態といえるSUV商売ばかりに多くのドイツの名門ブランドを駆り立てているとも言えます。

  アウトバーンの国・ドイツの自動車産業は数年前から曲がり角を迎えています。ほとんどの地域ではハイウェイの制限速度を100~120km/h程度に設定するようになり、ドイツ車の持ち味とずっと言われてきた「高速安定性」は、もはや最大市場のアメリカでは大きな商品価値を持たなくなってきました。本来ならばセダンやハッチバックが実力通りに大いに売れるはずですが、北米市場ではどちらのジャンルも完全に日本車によって追い出されてしまいました。どっかの評論家が言ってましたが、「アメリカの金持ちはユダヤ人が多いのでドイツ車を避けてレクサスを買う傾向にある」とかいう、なかなか斬新なドイツ車擁護論を聞いたことがあります。しかし「カローラよりも安いゴルフ」や、「カムリより安いパサート」が不思議なことにそれほど売れない現状を見ていると、「ドイツ車およびドイツブランドの力不足」に問題があると考えるのが妥当じゃないでしょうか。

  日本市場では「メルセデス」「BMW」「アウディ」「VW」のエンブレムが付いているだけで「お〜!すげ〜!」とか言い出すクルマ音痴な人々が多いですから、あまり言われることが少ないですが、ドイツ車は実際のところ結構とんでもないクルマが多いです。まずは「メルセデス」ですが、このブランドは近年とくに開発力の低下が叫ばれています。1990年くらいまでのメルセデスは「最善か無か」というイニシアティブに基づいた異次元のクルマ作りをしていたそうです。乗ったこと無いので何とも言えませんが、多くの人がそういうのである程度はそうだったと思います。しかし最近のラインナップのモデルを試してみると、どれもこれもどこかバランスを欠いた不可解さがくっついてくるモデルが多いです。

  言葉が悪いですが、新しく登場した多くのメルセデスのモデルが部品メーカーを締め上げてつくったかのような設計で、部品同士が喧嘩したような不整合なギクシャクを感じます。例えば日本車ならばどのメーカーのものでも、「エンジンの特性」と「ミッションの仕様」には一定の相乗効果が見られるのが普通です。トヨタ、ホンダ、スズキ辺りは熾烈な燃費競争を繰り広げているので、エンジンとミッションの組み合わせに神経をすり減らすのは当然です。日産、スバル、マツダなどは逆に乗り味を良くするためにエンジンとミッションのリズムを上手くまとめ上げ、日本メーカー車に独特の繊細さが感じられる仕上げになっています。

  多段式(8速くらい)のトルコンATを使ってしまえば、変速ショックが大幅に軽減されるので、ある程度は誤魔化せてしまうものです。メルセデスの場合FRの上級モデルはこれでなんとか開発時間の不足を補えています(BMWやレクサスも同じか・・・)。しかし逆に多段化でシフトの選択肢が増え過ぎたせいで、いまいちシャキッとしないスポーツモードになっているケースも散見されます。この点に関してはメルセデスやBMWが使う7or8ATよりも、VWの6DCT(湿式)の方が洗練されている印象すら受けます。

  そしてドイツメーカー同士で同じ排気量のエンジンを比べたときに、BMWやVW&アウディに比べてメルセデスのエンジンは「噴け上がりが鈍い」と感じやすいです。先ほどのスポーツモードもそうですが、車重があるメルセデスにとっては同等のスペックでは不利になる点と言えます。そしてミッションとエンジンの組み合わせに熟成不足があることが、メルセデスに対してしばしば見られる厳しい評価につながっている気がします。クルマの良し悪しは必ずしもエンジンやミッションのフィーリングが全てではないので安易な結論は控えますが、メルセデスの煮詰めは相当レベルに甘く、ある程度「走り」を意識した日本車・ドイツ車という強力なライバルの中においてはかなり明確に低水準なのがよく分ります。新型モデルが慌ただしく次々と登場してますから、1つのモデルに時間を割いて乗り味を調整することもなかなか難しいのだと思います。

  それでもメルセデスが、ライバルのBMWやアウディに対して優位な点もあります。最も顕著なのは、個性的な内装づくりに対する姿勢です。カーメディアは常にドイツのこの3つのプレミアムブランドに最大限の敬意を払っているので、どのブランドのクルマも判を押したように「高い質感はさすが!」としか書きませんが、実際のところはある程度の優劣は存在します。ここでリードしているのが、開発スパンの短縮化を社是としているメルセデスです。ドイツらしい質実剛健さがまだまだ随所に見られるBMWやアウディはもう古い!と言わんばかりに個性を盛り込んだ内装の作り込みが目立ちます。とある雑誌にCクラス、3シリーズ、A4のワゴンを比べる企画がありましたが、Cクラスワゴンだけラゲッジスペースの脇にネットのポケットが付いていて、その姿は使い勝手でナンバー1を獲得している某日本メーカーのクルマを彷彿とさせます。

  インパネやラゲッジルームのレイアウトを個性的かつ機能的に作るという点において、メルセデスは明らかにトヨタのクルマ作りの影響下にあるようです。センターコンソールを盛り上げる意匠は、プリウスやレクサスのHV専用モデル・HSからのトレンドと言えます。来年発売のVWの新型パサートを見て、「なんだかプリウスの内装みたい・・・」と思った人は多かったはずです(私もそう思いました)。トヨタの内装は日本の評論家やクルマ好きからはあまり高く評価されていませんが、その足取りはドイツ人の心を射抜くものになっているようです。飛行機のファーストクラスのような包まれ感はレクサス・日産そしてドイツプレミアムブランドの間で共有された「価値観」になりつつあります。

  レクサスが北米に登場してまもなく、トーマス=フリードマンが「レクサスとオリーブの木」を出版しました。その15年後の2005年にレクサスが日本上陸したときは、日本の多くの自動車好きがレクサスの「世界戦略」にかなり懐疑的だったと思いますが、それからさらに10年が経ち、先輩格のドイツブランドをも呑み込んでしまう大きなうねりになってきたように思います。その中で相対的に存在感が希薄になったドイツブランドには、盲目的な追従ではなく、新機軸を生み出す革新性を打ち出してもらいたいと思います。「国策」なんてクソみたいな大義名分は放り出して、終わったと思われたイタリア産業から大胆にも世界を見据える「マセラティ」であったり、ベンチャーながらも堂々のブランド展開を行う「テスラ」のような自信に満ちあふれた前進をしてもらいたいと思います。


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